無名のアスリート 越崎 歩(3) 「大胆なスタイル改革が成功」
もともと進学ではなく、就職希望だった越崎歩は、吉田先生の推薦もあり中国電力に内定する。
「高校の3年間すごく努力したわけでもないのに中国電力に入れてもらえて、今思えば、本当に運が良かったと思います」
中国電力の選手は、一般社員と同じように朝8時50分から午後3時までそれぞれの配属部署で働いている。定時の5時20分よりは早く仕事をあげてもらえるが、フルタイムで卓球に専念できるチームが増えてきている中、中国電力はこのスタイルを続けている。
「普段は朝、会社に行って、でもあまり行っていないので迷惑かけながら支えてもらいながらやるのですけど、3時まで仕事して4時から練習する時は、たぶん朝から練習する時より体もきついし、明日も会社だと思ったら急いでお風呂入って準備して、という繰り返しをしています。フルタイムで朝から練習しているチームを羨ましく思う時もありますね。ただ、試合前は合宿とか入れてくれるので、試合に対して調整できないとかはありません。
それよりも会社にいないとわからないこともあると思います。また、ホームマッチなどでも応援に来てくれるのは、私たちが会社に行って、毎日話しているからだと思います。普段、接してくれる方が応援してくれるのと、とりあえず会社だからと来てくれるのでは、自分が感じるものも違うなと思うんです。2〜3年で職場が変わるんですけど、何年も前に上司だった人もいつも来てくれて、声をかけてくれるのは会社に実際に行って務めているからだと思います」
社会人としての競技生活スタイルはチームによって様々だ。フルタイムで卓球に専念できるチームが増えてきているが、中国電力にはこのスタイルで日本一になってもらいたい。
「働いていろいろな人に会うのは自分にはプラスになっていると思います」
何でもその道を極めるということは、専門性を問われるが、同時に人間性を問われるのだと思う。仕事を通して人と出会い、それが卓球にも活きてくる。
ちなみに越崎は現在、カスタマーセンターでオペレーターをしている。
さて、社会人となった越崎。毎日、仕事と卓球に必死な生活をおくる。
「最近は、高校から会社に入る人が少ないが、逆に私みたいに高校時代に成績がなくて、クセとかもあまりなくて、だから、わたしは言われたことを言われたとおりにできた。それが全部プラスかと言ったら、自分の意見がないことがマイナス面になることもあるが、何も知らない高校生だから言われたことをやろうとする、できたのかなと思うんです。
そういう方が化けやすいというか思い切って変われるかもしれません」
実績も実力もなかった越崎がチーム戦に出る幕はない。とにかく言われたことを必死にやったから自分が進化したのだと話す。彼女が純粋で素直だからこそできたのかもしれない。
具体的にはカットマンでありながらドライブを多用するというスタイルの大胆な改革に取り組んだ。
「最初は箸にも棒にもかからなかったけど、コーチとの巡り合いもあって、モデル的には朱世赫みたいな攻守のバランスがある今までにないカットマンを目指した」と橋本監督は話す。
言葉でいうのは簡単だが、今までやってきたスタイルを大きく変更するというのはなかなかできないことである。特に実績があればある程、それには勇気がいる。越崎の場合、高卒で実績がなかったということが幸いしたのだろう。
「一応、カットマンなんですけど、たぶん特徴がないカットマンだった。すごく粘るわけでもないし、打つのもほかの人より打っていたといわれてもそれはたぶんスマッシュで、確率が高いわけでもないし、ミスも多いしという卓球を、まずフォア打ちからなおされて、ドライブを教えてもらって、カットだけでなく、サーブを持ったらドライブ、相手がつっついたらドライブというスタイルにしてもらった」
だからといって、すぐにその成果が表れるはずもない。2年目の後半頃からチーム戦に起用されるようになったが、勝つことができない。チームに貢献できない日々は長く続いた。
だが、入社3年目の全日本選手権で越崎に大きなチャンスが訪れたのだ。それは、越崎のその後の意識を変えたほどの大きな、大きな出来事だった…。
