大嶋雅盛先生 「一に勉強、二に掃除、三に卓球」
今年の5月にクロアチアのザグレブで行われた世界卓球選手権大会(個人戦)に日本代表として女子選手7名中4名を輩出したミキハウス。平野早矢香、樋浦令子、藤沼亜衣のミキハウス社会人選手とミキハウスJSCの石川佳純である。
今回ご紹介するのは、四天王寺中学、高校、そしてミキハウスの監督を務める大嶋雅盛先生。
ミキハウスが卓球に力を入れだしたのは今からちょうど10年前になる。
「中学3年、高校3年、ミキハウスで4年。10年はかかるとは思っていましたので、10年計画で選手を作ろうということでお願いしてきました。これまでオリンピックには出ましたが、その先ですね…」
完全に世界を意識した体制、環境作りである。この10年間である程度の成果は見せている。しかしながら、オリンピックに出場しただけでは大嶋先生はもちろん満足などしていない。「その先は僕の器がないから…」と謙遜するが、世界で勝つことの厳しさ、難しさを身にしみて感じている数少ない日本人のひとりである。
そして、その難しさを知っているからこそ、そこへの挑戦を続けているのだろう。
さて、10年の一貫指導といってもいいところもあれば悪いところもあるはず。まして、中学生といえばまだ子供だ。
「中学生の時は、言われたことを全部守りなさい、矛盾があっても守るんだよと教えます。高校生は、半分は自分の意見を言いなさい、半分は守りなさいと教えます。社会人になるとすべて自分で決めて、自分で責任がとれるようにと。簡単にいうとそんな感じで分けています。もちろん社会人にもいろいろなことを言いますが、それは命令ではなく自分の意見を言っているわけで、それで自分でどうするか決めさせます」
この理論はきわめて単純でわかりやすいが、日々の中で接し方を使い分けていくのは細心の注意が必要になる。このあたりはやはり長年の指導経験がなければ難しそうだ。
「選手が理解するまでしっかり話をします。特に中学生は義務教育の段階だから必ず守れ、ではないけど、言われたことに対しては忠実にやっていかなければいけない。まだ、教えられる方だからね。高校生になるとある程度自我ができてくる。自分の意見も言ってこい、お互いに話し合って決めようやといいます。
だから、接し方が違うというのはみんなも理解しているんじゃないですか。そういうことだぞということは話しているつもりです」
一貫指導の利点といえば、同じ選手を長く指導し続けられるということになるが、「一貫がいいのかどうかわからないけどね。嫌がっている選手もいるし…」と笑い、「利点は環境に慣れなければいけない時間が要らないということぐらいじゃないですか」という。
これまで一貫指導をしてきて、いい部分と悪い部分は十分にわかっているはずだが、大嶋先生はあまり細かいことを語らない。それは選手によって様々だからだ。
だが、中・高・一般の各世代の選手のどこに多くの比重をかけているかという問いかけに対し、すべてに100%と答える。「33%ずつで足して100%ではない。中学も、高校も、一般もすべてに100%を注いでいます」
ところで、これまでたくさんの名選手を育ててきた大嶋先生だが、その指導方針は年々様変わりしてきたと話す。
「今は、一に勉強、二に掃除、三に卓球ですよ。勉強ができないと練習させてもらえない。勉強の基準値を作り、それをクリアしないとたとえ石川といえど練習できない。二番目の掃除とは、学校でのキチンとした生活ができなければいけないということです。三番目に卓球ですから、今の子は結構勉強できますよ」
これが、現在の大嶋先生の大きなビジョンであり、根幹といってもいいだろう。長い指導、多くの経験の末、この考えに到達しているという。
そして、長年の指導により導き出したもう一つのキーワードが「自然」
「だいたい自然に任せている。あまり無理にこうしようとか、策を講じようとかすると、結果的にその時はうまくいってもひずみはどこかにある。自然の中でやっていくのが自分にとってはいいみたいですね」
一言で「自然」といっても人それぞれに感覚の違いや格差がある。大嶋先生はレベルというか次元が高い上で「自然」を心がけているのだろう。
大嶋先生は現在、四天王寺から出向し、ミキハウスの練習場で一日中、卓球だけをみている。ミキハウスの選手の練習を午前、午後こなし、そのあと学校から帰ってきた四天王寺の高校生、中学生の指導を行う。朝から晩まで卓球漬けの毎日だ。それでも「こんなありがたいことはない。好きなことを仕事にさせていただいて幸せですよ」と話す。しかし、いくら好きとはいえ毎日約12時間、365日、ほとんど休みもなく続けるということは並大抵でできることではない。
「ただの球ひろいのおじさんですよ」と笑い飛ばすが、選手のためにここまで尽くせる指導者がどれだけいるだろうか。
そして忘れてはならないのが家族の理解と協力。あることをやろうとすれば、少なからず家庭が犠牲になってしまうことはどの世界でも共通している。
大嶋先生の一番の理解者である由美夫人は、
「夫婦の会話は95%くらい卓球です。好きなことなので喜んでやっているから苦労だと思っていないと思いますが、なかなか目指すところまで行けないので、どうしたら、どうしたらとずっと考えてやっているみたいですね。これからも健康に気をつけて頑張ってほしい。できるだけのサポートをしたいと思います」と気遣う。
「人生そのものでしょ。好きな卓球を仕事にさせていただいているのだから、こんなにありがたいことはないです」
最初にお会いしたのはもう十数年前になる。大嶋先生は覚えていないだろうが、チームの写真を撮らせてほしいと頼むと、断られた。正直、怖い先生だなぁとその時は思った。その後、いろいろな会場でお会いするたびに、次第に面識が持てるようになった。
一見、強面(こわおもて)だが、かなりシャイな面があり、なかなか本音を話してくれない大嶋先生。この先生から話を聞き出すのは難しいが、その一部だけでもお伝えできたかと思う。
「ぼくらよりいろんなことを知っている人はたくさんいる。熱心な人はたくさんいる。僕なんかそんな熱心じゃないもの(笑)。逆にいろんなことを教えてほしいですよ。すごい人がみんなで集まって話をするとかね。例えば異分野の人も大事だと思う。発想というものはとんでもないところからでてきたことが、すごくためになることが多い。同じ業種もモノが集まってもすごい発想はない。とんでもない人がとんでもないことを言う。そういうのがいっぱいあるといいですよね。だから、教えてほしいですよ」
日本の中に本当にプロフェッショナルだなと思える指導者・コーチは少ない。大嶋先生はその数少ないプロフェッショナルなコーチの一人だと思う。
“卓球は人生そのもの” 大嶋先生の挑戦はまだまだ続く。

